雨の日、ダラダラ

雨が降っている日はどうしても外出したくなくなってしまう。
個人的には人類の大半がそうなんだろうと思っているものの、やはり広い世の中には雨が降ればウキウキワクワクしてくる河童や深き者どものような気性の御仁もおられるのだろう。
幸いに、私は『雨の日はウキウキワクワクしますか?』などと街頭インタビューを実施したこともないので、その存在を考慮する必要はない。

とにかく雨であればそれだけで憂鬱になって、億劫になるのだけど、それでも雨の日に外から帰ってきて家に入る瞬間は割と好きなのだ。
はじめから外出せず、家にいるときと違って玄関を閉めたときに「ふう」と疲労からのため息と安心があわさったような息が出て、倦怠感が押し寄せる。
外は雨が降っており、家には自分しかいない。
これが初冬の夕方五時過ぎならなお良い。
薄ら寒くて、傘を差してもなお全身が湿っている。
昔、テレビCMでお茶漬けだったか、女子高生が雨の日にやはり薄暗い自宅にずぶ濡れで戻ってくる映像があった。
私はそのCMが大好きで、テレビで流れる度にじっと見ていた。

しかし、それでも雨の日は家にいるのが一番いい。
誰もいない平日の自宅で、外を騒がす雨音を聞きながら目を閉じるのだ。
今日はそうやって寝ている。
仕事なんてしったことか。

線を辿って

まるで絵が描けない。

書道も苦手であって、どうも生来の美的センスという物が僕には欠落しているようだ。

そのようであるから、僕は芸術とは無縁の実務者の一人として世界を回すこと、あるいは世界に回されることを日常にしている。

好きなことをせず、嫌いなことも甘んじて受け入れ、そうやって数十年も繰り返せばくたびれて擦り切れかかった中年が出来上がる。

どこにでもいる中年だ。

そんな中年に、芸術に触れる機会があった。

飲み屋で知り合った三十絡みの女性を口説いて、ホテルに連れ込んだら背中に入れ墨が入っていたのだ。

今まで、入れ墨の入った女を抱いたこともなくはないが、今回は随分とステージが違った。

タトゥーではなく、刺青だ。

和彫りの阿修羅。しかしまだ筋彫りで色が入っていなかった。

未完の背中。

次の段階に進む為に、今はもっぱら仕事に打ち込んでいるという彼女との情交が終わった後、背中を撫でながらゆっくり眺めた。

特段、柄の思い入れも由来も聞かなかったが、美しかった。

そして、そんな重たいものを背負うに至った彼女の屈折が少しだけ見えた気がした。

胡散臭い男への憧れ。あるいは中二病の痣。

僕の中二病は30代を迎えるずっと前に根治してしまって、乾いた諦観と倦怠感がその後の僕を蝕み続けている。

だけど、自分の中に中二病の痕もないではない。

これは、すでに皮膚の一部と化してしまった火傷の痕に似て、今後はこのまま僕の一部としてつきあっていかねばならないのだろうと思っている。

具体的に言えば、胡散臭い男になりたい欲求だ。

立ち位置不明の怪人がしばしば創作に出てきてトリックスターとして物語を撹乱するが、まさに学生時代の僕はそんな男にこそなりたかった。

そしてなれなかった。

心の底を読ませないように突飛な振る舞いを好み、目つきで怪しさを演出する。

私服で外出する際はやはりどこか型を外れた服装を好む。

普段、勤勉に仕事し、メモを取り、こまめな連絡調整に定評がある社会人として、仕事上の知り合いとアロハシャツに下駄で出会うと気まずいのだけど、まあ、それでも上手く調整を付けてやっている。

夢は覚めたが、その残り香はきっと死ぬまで僕を縛る。

3歳の息子にスーファミをやらせた。

法事で妻の実家に行ったのだけど、義弟の部屋にスーファミがあった。

なので、テレビにつないで三歳半の息子にやらせてみた。

 

確か、当時はグラフィックがすごいと言われていた『ドンキーコング2』を挿してみた。

正直に言えばツライ。

テレビが大きく、解像度も高くなっているため、スーファミの画面は荒々しく見える。

それでも軽く動かしてみるとやれないことはない。

息子にコントローラーを渡すと、おそるおそるボタンを押す。

画面の中で猿がくるりと回る。

「Bボタンが……」

息子はアルファベットどころか平仮名も読めない。

「黄色いボタンでジャンプするよ」

すると手元のBボタンを押す。が、視線をテレビに戻したときには猿が着地している。

再び、手元を見ながらBボタンを押すが、やはりしせんを戻すと変化なし。

「右を押したら進むよ」

言うとコントローラーを握っている右手をぎゅっと握りだした。

僕自身も初めてファミコンに触れたのは3歳位だったと思う。

親父が同僚からファミコンを借りてきて、シューティングをやらせてくれた。

多分、親父も今の俺と同じで「ダメだこりゃ」と思った事だろう。

とにもかくにも息子は前進を覚え、しかし攻撃法法を理解しないまま、最初のネズミみたいな敵に体当たりしてはミスを繰り返しながら、それでも奇声をあげて爆笑している。

やがて、嫁の甥っ子姪っ子も集まってきてコントローラーを取られていたが、よほど気に入ったらしい。

帰るときになっても「ゲームしたい」とだだをこねていた。

まあ、夜中に寝言でまで「ゲームしたい」「僕の番よ~」「返してよ」と泣き叫んだのはさすがに失敗だったと思ったけどね。

あと、家にあるPS3がDVDやトルネを見るための機器ではなくてスーファミなんてぶっ飛ぶほどの性能を持ったゲーム機である事は今後とも秘密だ。

理想の弟になれなかったことへのイロイロ

姉と暮らしたのは僕が中学を卒業するまでの間だけど、僕が5歳位の頃には、彼女は料理や洗濯等の家事をこなし、主婦の役割をこなしていた。
母が死んで、三つ上の姉はそんな役割を担ってしまったのだ。
だからまあ、感謝はしている。
それは嘘ではない。
それでも、僕らは仲が悪い。

普通、そんな境遇で育てば姉弟仲というのはとても良好ではないかと思う。

しかし、どうしても友達になれない奴がいるように僕らは仲良しにはなれない。多分、これからもずっと。

中学生の頃、僕は確か槇原敬之が好きだった。麻薬で捕まる少し前だ。
グレイ等のビジュアル系全盛である。
何故におまえはあの綺麗な兄ちゃん達ではなく何とも言えないオッサンの歌を好むのだ。
そんな事を言われた。
僕はその頃、文系オタクで暇があれば本を読んでいたし、テレビゲームをしていた。
姉はテレビゲームと小難しい小説に興味も理解もなかった。

彼女は、特にポピュラーな物を好んだ。
友達との会話はテレビゲームや小説ではなく、流行のドラマや売れ線の音楽や格好いい先輩が主流だったんだろう。
友達との関係が主に臆病な姉の世界を構成していて、そして今にして思えば僕は彼女の世界にいなかったのだ。
だから、僕の言動は彼女にとって異世界の住民の様に奇妙に見えたのだろう。
怠惰で、理解不能の趣味を持ち、頭がいいわけでもない。

もし、僕が快活で、活字なんてまったく興味も無く、流行の歌を上手に歌えるような少年だったら、すこぶる仲のいい姉弟になれたのだろうか。

それもこれも、全部今更だけどね。

銀魂の話、あるいは溝鼠組の構造について

いい年をして、銀魂についての話を展開する。

先に言っておけば、僕はヤクザに詳しいわけでも、ことさら銀魂に詳しいわけでもない。

ただ、ここ何年かずっと気になっていたことを、ちょっと文章にして自分で整理したい。

・なぜに「オジキ」と呼ばれるのか

銀魂作中、登場するヤクザは皆、溝鼠組であるようなので、舞台の歌舞伎町はその縄張りなのだろう。

さて、しかし溝鼠組は組長の次郎長と若頭の勝男しかネームドキャラが出てこない。

あれだけワラワラと兵隊がいて、人材難もここに極まる。

しかし、勝男が若頭だと言うことは少なくともウィキには明記されている。

同時に、次郎長が配下から「オジキ」と呼ばれていることも明記されている。

ここに違和感を感じない人は、おそらく風俗の待合室で代紋TAKE2ではなく空手婆娑羅伝銀二の方に手を伸ばす人だ。

・ヤクザとは疑似家族組織である

組織の長は家長であり、すなわち父である。

一般的に言えば、長男に当たるのが若頭で、子分の中で最も格が高い。

つまり、若頭は組長を「オジキ」ではなく「オヤジ」あるいは「親分」と呼ぶのが一般的だ。

では、「オジキ」とはなにか。そのまま、親分の兄弟である。

この場合、おそらく勝男の「オヤジ」は次郎長の舎弟か、兄弟分であったと推測される。

ただし、関西弁を喋るところを見れば、勝男は関西からの流れ者の様だ。そうなると、最も無理なく考えられるストーリーは次の通り。

関西でヤクザをやっていた勝男は地元で下手を打ったか、仕事をしたかして江戸に流れてきたのだろう。

その際、親分の伝手で次郎長の元に身を寄せた。

次郎長にとっては勝男は「甥」であり、溝鼠組にとっては「客分」である。

草鞋を脱いで、稼業を手伝う内に、人材不足の溝鼠組で頭角を現し、張り合う者もなく、「若頭待遇」(通称若頭)に収まったのではないか。

普通、盃をなおして次郎長を親とあがめればいいのだが、元のオヤジへの配慮か、叔父、甥の関係を貫いているのだろう。

・勝男はそうとして、他の組員は?

ではなぜ、勝男はともかく他の組員にまで「オジキ」と呼ばれるか。

これはもう、勝男に付いている組員は次郎長の盃を受けていないのではないかと言うことしかない。

勝男個人と兄弟盃を交わした舎弟なのだ。

だから、彼らにとっては「兄貴」の「叔父」は自分から見ても「叔父」であろうとして、次郎長を「オジキ」と呼称するのだ。

次郎長を「オヤジ」と呼ぶ組員が登場しないのは、単に比率の問題で、実際に溝鼠組を構成する者の大半が勝男の舎弟であるなら不思議ではない。

・結論

勝男は有能な男なんでしょ。

いつかまとめたかったので、すっきりした。